S様は、数多くの貴重なお道具を持ち、ユニークなお茶事をされる事でも有名な方です。
今回ご案内を頂いたのは、「夕ざり」
午後3時くらいから、ゆっくりの始めて日が陰り行く様をも楽しむ趣向の茶事であります。
ご存知の通り、茶事は、(だいたい炉の場合)客が席入して初炭点前がされます。
初炭点前が終われば、間を開けず懐石料理を頂きます。
懐石に続いて菓子を頂き、一旦 客は露地に出ます。(中立ち)
ここまでを「初座」(しょざ)と申します。
中立ちの間、亭主は茶室の中を掃き清めたり、濃茶の設えに変えたり致します。
客は、この間、露地にて閑談したり、手洗いを済ませたり、心静かに亭主の迎えを待ちます。
やがて茶室が整い、亭主の迎えがあります。
大抵の場合、亭主は、銅鑼やカンショウを打ち、音で知らせます。
客一同は、この「鳴り物の音」を心して聞いて、再び茶室へ入ります。
この後、茶室では、濃茶、後炭点前、薄茶と続き、これらを「後座」(ござ)と申します。
本来、正午から行う「正午の茶事」も、早朝に行う「暁の茶事」や、「朝茶」は、
初座が陰、後座が陽 のような背景になりますが、
この、夕ざりの茶事は、初座が陽、そして日も傾く後座が陰となり、いつもと逆の面白さが有ります。
即ち、初座では、正午の茶事とほぼ変わりない背景でありながら、後座では、蝋燭、行燈などの灯りを用いて、さながら「夜咄の茶事」のよになります。
いわば、一回の茶事で、二通りの楽しみができます。
今回の茶事も、
初座では初夏のような抜ける青空に青楓がなびき、露を打たれた苔がキラキラと光り輝く露地を通り 席入すると、比較的明るい小間の中では、行く春を惜しむかのように もはや仕舞われんとする炉に、筒釜が一つ自在に掛りながら、静かに松風を立てておりました。
茶室では、窓も貴人口も少し開けてあり、時折吹き込む爽風に、床の花も揺らいでおりました。
亭主心尽くしの懐石、菓子を頂き、中立に露地に出ますと、少し日が傾き、なんとも言えぬ晩春の黄昏に、後座の期待が胸を膨らませます。
大、小、中、中、大
と亭主は、カンショウを5回打たれ、席入したら 席中には蝋燭、古い朝鮮のランプなど色々と明かりが灯り 御座は一変 夜の茶の雰囲気になっております。
濃茶、薄茶を頂き、退席したら、露地にも、母屋の廊下にも、足元行燈が用意され、ご亭主の心遣いに感動致しました。
待合にて、さらに果物とほうじ茶を頂き、奈良まで帰る英気を養い、帰途につきました。
堂後茶道教室http://www.dogo-sado.jpn.org
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